時給400円の派遣社員から社長秘書になるまでを描いた今話題の「アリギャル」。
志賀直哉に影響を受けた仁志賀直哉の不休の名作。
いったい城崎温泉にきて、骨休みもせず何をやっているんだと思われるが、自分も薄々感じながらの投稿。
「アタシは今、時給400円で、ホッチキスの芯を取っている。
朝から4時間かけて、すでに何個のホッチキスの芯を取っただろうか。100から先は覚えていない」
昼を回り、女子会のランチを仕事で忙しいと断り、スマホの電源を入れて、パズ○ラを楽しむ三十路女性。
「アタシは課金しない」と言った翌日に万札をつぎ込んでいた。
ホッチキスの芯のついたパワポ資料の束の1つに、いかがわしい名刺がついていた。
【夢の国ピンクアイランド さおり
もりちゃんのあそ…(自主規制)】
「…うわあああぁ」
何処に営業いっているんだよ、営業の森さん…。
アタシは森さんに言ってやった。
「夢の国で案件たちました?」
気がつけば、アタシは正社員になっていた。
営業部に入ってからの第一声。
「おめぇの席ねえから」
居場所は自分で見つけろと言うことだった。
「営業はアシで稼ぐんだよ」
そういう高橋さんは水虫。
水に流そうとするときの鉄板ネタが水虫ネタだ。
「努力は必ずむくわれる、私の足もむくんでる」
彼の言葉が最後の営業成績4位の言葉だった。
営業成績3位のアタシが言うのもおかしいのだが、営業部は4人しかいない。
早急に自分の席は見つかった。
緊急会議が行われた。最重要顧客のクレーム対応のための会議だ。
アタシは議事録の記録係だった。
森さんの顔がいつになく険しい。
「誰だ、私のコーヒーにミルクをいれたのは!?」
「ミルクではないです、クリープです」
「そんなんだから、お客が怒るんだよ」
どうでもいい会議だった。
アタシは議事録の最後に付け加えた。
「アタシを営業部長にしてくれるかな?」
「いいとも~」
なぜか、議事録の森部長の承認が通った。
たまたま近所にいた奥さんが社長婦人で、近代海賊株式会社の社長の弱味を握ることができて、
ノーアポで乗り込んで会社から数億の案件をゲットしていたからかもしれない。
とにかくアタシは初の女性営業部長になった。
「あの営業部の女部長は人の弱味に漬け込んで、案件をとってくる悪魔だ、2ちゃんにも書いた」
社内広報に匿名で投稿された内容だった。
私は副社長に呼ばれた。
「あなたのことですよね。この記事にある女性は?」
「恐らく、アタシのことかと」
「確かに数億の案件をとり、その後も順調に取引先を増やしている。
だが、人の弱味に漬け込むというのは…」
「お言葉ですが…」
「言い訳を聞くために読んだわけではない。
今までの奇跡、君1人の力でできたわけではないことをご存じかな」
「もしかして…」
「そう、私が裏で手を引いていたのだよ。新しい革命を起こすにはいくつかの奇跡が必要なんだ。
たとえば契約社員が営業部長になるような」
「それで、アタシに何をしろと」
「その腕で社長の弱味を握ってほしい、それを少し教えてほしい。それだけでいい」
「わかりました」
営業部に戻ったアタシは、森副部長に言った。
「多少の犠牲は覚悟してほしい」
コーヒーを吹き出した森副部長を横目に、アタシはその足で社長室に向かった。
副社長の社長失脚の陰謀に加担すべきかどうか。
迷いつつも社長の弱味を握るには社長の側に行くしかなかった。
「社長、失礼します」
「これは営業部長。困ったものだな。不穏な噂があるようだが」
「アタシが特別って思うのではなく、誰でも同じ可能性をもっているという事を、知って欲しいです」
「どういうことだ?」
「社長、ここ最近の人事に違和感を覚えませんか?」
「人事は副社長に一任している」
「ここ1年、先代の社長と貴方が育てた社員のほとんどが失脚していることをご存じですか」
「君を含め、過去の社員より優秀な人材が現れた。それだけではないか」
「副社長が貴方のポジションを狙っているとしたら」
「彼が優秀なら仕方ないことだ、だが、彼を社長に決めるのは私だ、そして君の最終処分を決めるのも私だ」
「では、あらぬ噂のある私がいると営業部は受注に影響を与えます。営業部長から降格し、森副部長を再び営業部長に…。」
「それでは森の思う壺だよ」
「え?」
「この噂は森の仕業だ、私怨で君を貶め、さらに会社の信頼まで落とすとはな」
「でも証拠は」
「森のロッカーに、私と君の藁人形が入っていた、君の人形の方は釘が折れ曲がってたよ」
「…森さん、ベタすぎでガチすぎるよ。このあと、森副部長にあって(殺○て)きます」
「困ったものだ、君と私だけでなく、社員の未来を奪おうとするのだから。だが安心してほしい。ここ1年で降格、転属した者は間もなく元のポジションに戻す予定だ」
「どういうことですか?」
「ま、君の処遇は考えておく。好きな転属先はあるか」
「ホッチキスの芯を綺麗に抜くことしかできませんから」
総務部に戻ったアタシは、釘バットで森を叩く妄想をした。なんとか妄想だけですんだ。
社長失脚を狙う副社長、
営業部長の返り咲きを狙う森副部長、
その陰謀に振り回されるアタシ。
「とりあえず副部長潰せばいいんじゃね?」
極めてシンプルな答えが出た。
翌日、副部長が辞表をだした。
魔法の言葉はなくとも、いとも簡単に。
部長、副部長不在の営業部門の建て直しのため、副社長が陣頭指揮をとることとなった。
その日アタシの最後の仕事は社長に営業しただけだった。
営業部から身を引いたアタシは秘書課に入った。
秘書になる条件はホッチキスの芯を綺麗に抜けることだった。
アタシは副社長に社長室の入り口ですれ違った。
「このたび、営業から秘書になりました、社長の弱味ですが人情でした」
「そうか、報告ありがとう」
饒舌だった副社長の言葉は少なかった。
秘書課を選んだのは、合コンしたときにイケメンがたくさんいそうだったから。
社長を選んだのは『他人の未来の為に必死でがんばる人』だったから。
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